ゼム・クリップは、きわめて簡単な仕組みでとても便利な道具です。

ヘンリー・ペトロスキーの『デザインによる発明』(ハーバード大学出版)には、この小さな道具についての興味深い記述があります。

スキーはゼム・クリップには、らしく、『有用なことの進化』(ノップ)でもふれています。

ペトロスキーによれば、ゼム・クリップはわずか4インチの針金を3回曲げただけの、とるに足りないもののように見えながら、実によく考えられた道具だといいます。

こうした単純な道具には、誰もその仕組みなどに気をとめたりしません。


しかし、こうした簡単な道具にこそ、なかなか高度な仕掛けがあることが少なくないのです。

ゼム・クリップは、あれだけ単純な構造で、スプリングの機能を持っており、そのスプリングの機能で紙を挟んでいるのです。

そんなことは誰も意識しないけれど、たしかに、ものを挟むメカニズムはスプリングなのです。

洗濯挟みもダブル・クリップも例外ではありません。

それぞれスプリングの構造が異なるだけです。


ゼム・クリップがそのメカニズムを利用したものだとは、日常的には意識することはありません。

しかし、ゼム・クリップのスプリングが伸びて機能をはたさなくなっている状態を見て、それがスプリングであったことに気付くのです。 
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日本でシャープペンシルが製造されるようになったのは、やはり石井研堂によると大正期のことだといいます。

「体裁の好きと、其心墨の鋭き為めに、墨付きが好くして削る手数なきとに因りて大いに流行を来たし同(大正)十一年末には、東京と大阪を合わせて、模造工場百数軒に上り、従って粗製濫造甚だしく、大いにその品位を堕せり」
とあります。

これにより、大正期に日本ではシャープペンシルが大変流行したことがわかります。


百数軒もシャープペンシルの工場があったらしいのですが、その中のひとつに早川徳次郎の工場もありました。

早川氏の工場は東京の本所区におかれていました。

早川氏は発明の才能があったらしく、1923年までに48種類のシャープペンシルをつくったのです。

万年カレンダーを入れたものや、体温計を仕込んだものなど、かなりガジェット的なものをたくさん作っています。

しかし、関東大震災で被災し、そうしたシャープペンシルの特許を渡してしまったそうです。

その後、早川氏は電気製品の製造をすることになりましたが、早川電気は「シャープ」の名を現在も残しています。

当時のシャープペンシルの芯は合成樹脂芯(1960年、日本で開発)ではなかったので、0.9mmと太かったのです。

現在でも、速記などにこの太さの芯を使う人がいます。

鉛筆について、石井研堂の『増訂明治事物起原』(春陽堂)によると「明治六年填国博覧会に出張せし、井口直樹の発意灘を以って始めとす」とあります。

これによって、明治7年に日本製の鉛筆がつくられたことがわかります。

前田愛は『明治メディア考』(加藤秀俊と共著)の中で、
「明治の作家の原稿は圧倒的に毛筆ですね。なかにはハイカラな人もいて鉛筆で書いてる人もいます。木村荘八の回想ですが、その姉にあたる明治20年代はじめの女流作家、木村曙が『婦女の鏡』(明治22年)を鉛筆で書いていたそうです。これあたりが鉛筆書きの原稿としては早いものかもしれません。鴎外もよく鉛筆で書いています」
と述べています。


ところで、鉛筆を、削らずにさらに長時間、筆記できるように改良したのが「シャープペンシル」です。

しかし、コンラッド・ゲスナーが16世紀に記述している鉛筆は筒状の軸に鉛を挟んで使うタイプのものです。

したがって、鉛筆・の発明の歴史はかなり古くからシャープペンシルの発明と重なっていたと見てもいいかもしれません。

とはいえ、シャープペンシルという新しい筆記具としてあらためて発明されたのは、19世紀前半のアメリカにおいてでした。

「エヴァーシャープ」(いつもシャープ)という商標が使われるようになったといいます。


余談ですが、カール・マルクスが大英博物館の図書室へ日参して経済学の研究をした際に、彼が使っていたのは、シャープペンシルどころか、鉛筆でもなく、つけペンでした。

シャープペンシルがあったらどれほど時間の短縮ができたことでしょうか。

木製の鉛筆の起源ですが、よく知られているのは、この話でしょう。

スイスの医者であり博物学者であったコンラッド・ゲスナーが、木製の筒に鉛や1500年頃イギリスで発見された良質の黒鉛(イングリッシュ・アンチモニー)の芯を入れた鉛筆を、1565年に化石について書いた本の中で紹介したということです。

鉛や黒鉛の芯は折れやすく、また携帯すると衣服を汚します。

木にはさむ方法が開発されると、簡便に携帯し、迅速に取り出せるようになりました。


1793年、フランスとイギリスとの戦争によって、フランスはそれまで使っていたイギリスのボローデール産の黒鉛を輸入できなくなります。

これによって、情報の管理も教育も効率が悪化。

そこで大臣のラザール・カルノーがニコラ・ジャック・コンテに新しい鉛筆の開発を研究させます。

その結果、コンテは、黒鉛と粘土を混ぜ乾燥し高温で熱して芯をつくり、木製の筒に入れ、その筒を削りながら使うというほぼ今日の鉛筆の原型になるものを開発し、1795年に特許をとりました。


他方、ドイツでは、17世紀の後半に黒鉛を木製のホルダーに入れた鉛筆をフリードリッヒ・ステットラーが考案し、鉛筆の専門の製造業者になります。

その結果、ドイツでは1731年には鉛筆製造のギルドがつくられるまでになりました。


1761年にはカスパー・ファーバーが鉛筆の製造を始めます。

ファーバーの会社は引き継がれ、19世紀には硬さの異なる鉛筆を製造しはじめる。

エジソンは自分用の鉛筆を数千本も注文し、いつもベストの下のポケットに入れていたといいます。


また、『森の生活』の著者として知られるアメリカのヘンリー・デビット・ソローは鉛筆製造機械技術者でもありました。

鉛筆という簡便な筆記具がいかに人々の思考を助けてきたか・・・うかがい知ることができます。

鉛筆は、かつてのようには使わることが少なくなってきています。

しかし、この小さな筆記具について語るとなると、信じがたいほど多くのことを語ることができるのです。


たとえば、ヘンリー・ペトロスキーは『鉛筆』(邦題『鉛筆と人間』晶文社)という大著を書いています。

筆記具は、わたしたちの思考やアイデアを書き表すことで具体化し、見たことや聞いたことなどを記録する、思考と情報にかかわる道具です。

インクや墨汁という液体を使わず、また、備品もなく鉛筆はすぐに使えます。

また、持ち運びも簡単です。

古くは鉛筆はいわば夢の筆記具であったといえるでしょう。

古代ギリシャやローマで鉛を筆記具に使うことが行われていました。

また、紀元前の15世紀のエジプトの遺跡からは石墨の破片が発見されています。

しかし、おそらくこれは筆記具ではなく染色に使われたものだろうといわれます。

やがて、鉛の筆記具は改良され、滑らかな鉛の合金がやがて使われるようになりました。


ペトロスキーによると、12世紀にはドイツ人の僧侶ドフィルが鉛と錫の合金による尖った形状の筆記具について記述しているといいます。

「ロボット」という言葉を現在のような意味で一般化したのは、チェコの作家カレル・チャペックです。

彼が1920年に発表した戯曲『R・U・R』(ロッサム・ユニヴァーサル・ロボット社)にこの言葉が使われています。


チャペックによれば、この言葉は、チェコ語のロボタ(賦役)に由来し、働くことができても、考えることのできない人間を何と名付けたらいいかということを考えて、ロボットという名前を考えついたと語っています。

ロッサムが設立したR・U・R社で製造するロボットは、人間と区別がつかないほどよく人間に似ていますが、労働のみをする装置です。

この人造人間の製造工場は、フォードの考え出したシステムを使っています。

ロボットを大量に生産し、人間の労働を急速になくしていくことが、R・U・Rの目的でした。

R・U・R社のロボットがあらゆる人間の労働を代理してくれることで、誰もが労働から解放されるユートピアが夢見られたのです。

しかし、この物語では、それが実現されると、逆にディストピアになってしまいます。


人間たちは、子どもを産み育てるという労働をも嫌うようになります。

その結果、人間のいないロボットだけの世界になってしまうのです。

やがて、ロボット生産技術が失われ、ロボットにもロボットが生産できない状況がやってきます。


ここに、「労働する人間」「人間を産み育てる人間」「人権」というテーマが出てきます。

そうしたテーマであるからこそ、チャペックのロボットは、家電や機械ではなく、人間の形態として想定されたのでしょう。

しかし、今日の電子テクノロジーは、労働や種の保存が本当に人間の存在そのものを実感させるのかどうかを、真剣に問いかけてきているようです。

戦前にアメリカでつくられた産業フィルムで、主婦がロボットに家事をまかせるという内容のものがあります。

これは、結局、家電がロボットと同じ働きをしているという結末になっています。

ロボットを生み出すことへの夢は、労働の機械化への夢でした。

したがって、家庭内の機械化ということも、家庭内のロボット化と考えられたのです。


モーターを組み込んだ家電が、いわば筋肉労働を代用するロボットだとすれば、今日のマイコンを組み込んだ家電は、単純ではあるが神経の働きを代用するロボットになりつつあるということでしょう。

エアコンや全自動洗濯機など、わたしたちは、無数のマイコン、いや無数のロボットに囲まれて生活しているということです。

そして、もちろん、現在では産業用ロボットが、工場の申で労働している風景は、日常的なものになりました。

しかし、現在のマイコンを組み込んだ家電も産業用ロボットも、人間の形態をしていません。


かつて、夢見られたロボットは、人間の形態をしていました。

それは、人間の代用物と考えられたからでしょう。

あの可愛らしい鉄腕アトムもやはり、人間の子どもの代用物としてつくられたものでした。

すなわち、ストロマトライトが、地球上に酸素が放出されてきた証拠であることがわかった。

一方、縞状鉄鉱床は海水中の鉄分が酸素と結合し、赤サビとなって海底に沈殿して鉄鉱床となったものである。

ハマースレー盆地をはじめ、世界の縞状鉄鉱床の形成された時代は、ほぼ二五億年前から二〇億年前に集中している。

つまり、これらのストロマトライトと縞状鉄鉱床の存在から、地球上に大量の酸素が放出された時代がわかってきたのである。

原始地球の大気は、水蒸気と二酸化炭素からなるものであった。
水蒸気はやがて雨となって、海をつくりあげた。

二酸化炭素は、その大部分は海が形成された後、海水中にとけ込み、石灰岩のなかに固定された。

やがて、生命活動の光合成により、大気中に酸素が蓄積されてきて、現在のような地球独特の大気へと進化してきたのである。

窒素約79%、酸素約20%、アルゴン約1%、二酸化炭素約0.0035%、これが現在の地球の大気組成である。

地球上の生物にとって、ほどよい量の酸素、それは地球の進化の過程でつくられてきた。

その酸素の歴史を解きあかすカギは、オーストラリア西部のシャーク湾で発見された現世のストロマトライトと、同じくハマースレー盆地の赤茶けた縞状の大鉄鉱床に隠されていた。


ストロマトライトとよばれる風変わりな岩石は、古くから世界各地の約25億年前から6億年前ころの地層中から大量に発見されていたが、その成因については不明な点が多かった。

しかし、現世のストロマトライトの発見により、この岩石はラン藻類がつくりあげる堆積岩であることが明らかとなった。
しかも、このラン藻類は光合成をおこない、酸素を放出しているのである。

ダイアモンドは学術的にたいへん重要な鉱物である。科学技術の進歩した現代でも、地球のなかの物質を見ることはたいへんに難しい。

穴は、せいぜい10キロメートル程度掘るのが限界で、地球の半径の6400キロメートルから見ればゼロに近い。

ダイアモンドは、深いものでは地下約670キロメートルのところでできると考えられている。
ダイアモンドは、生成するときに、周りにある物質をなかに取り込むことがある。
一度取り込まれた物質は、周りの環境に影響されることなく、地表にもたらされる。
このようにして、ダイアモンドから、地球の深部の物質を手に入れることができる。

宝石としての価値は下がるが、研究者はその物質を調べることによって、地球のなかを知ることができるのである。

タイアモンドを見たときに、その美しさばかりでなく、ぜひ、地球内部の世界のことも思い描いてもらいたい。

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